漫画 登山

「孤高の人」単独行、加藤文太郎を描いた登山漫画の最高峰【ネタバレ有り】

孤高の人とは

「孤高の人」とは2007年から2011年まで週刊ヤングジャンプで連載された全17巻の登山漫画である。

絵は坂本眞一が担当、ストーリーは序盤は鍋田吉郎、その後高野洋が担当し中盤から後半にかけては坂本眞一がストーリーも手掛けている。

2010年には「第14回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞」を受賞。

原作は新田次郎の小説作品「孤高の人」だが時代背景や登場人物は大きく異なっている。


「孤高の人」あらすじ

人付き合いが苦手で誰にも心を開こうとしない主人公「加藤文太郎」(旧姓:森)は友人の宮本一に挑発され、学校の校舎の壁をフリーソロ(命綱無し)で登り、それがきっかけとなりクライミングや登山の世界にのめり込むようになる。

加藤文太郎の最終目標はいまだ誰も成しえることの出来なかった標高世界2位の山「K2」東壁からの登頂、その「K2」登山に行きつくまでの高校中退や恩師の死、北アルプスでの集団遭難、妻の花との出会い、娘の六花の誕生など様々な山と人生の経験を経て命を落としそうになりながらも「K2」登頂を達成する。


私が「孤高の人」にハマったワケ

「孤高の人」に出会ったのは私が登山を始めたばかりの頃で当時の私には漫画の主人公「加藤文太郎」が本当にカッコよく見えたんだ。

双子山で友人の夕実が滑落した際にまだ誰も登ったことの無い崖をフリーソロ(命綱無し)で登ったり、厳冬期の八ヶ岳にジーパン(しかも素手)で登りだすのは「こいつ危険すぎるやろ...」と流石に思ったが、危険な行動や異常な行動は目立つものの自分の目的のためにとにかく動き出す行動力に凄く惹かれたし、私自身人間関係の構築が得意ではなく、「加藤文太郎」の気持ちも理解できるというか、とても感情移入がしやすかった。

そして私は「孤高の人」にガッツリ影響されてしまう。

私服は登山用の服、靴は登山靴。

職場の通勤や飲み会でも常に登山の恰好で行動していたので「お前は山から下りてきたのか?」とおちょくられたりもした。

それが当時の私には気持ちよかった。(今思い返せば痛いなぁ~)

地元の低い山を登山するときは大げさな70㍑のザックに水の入れたペットボトルを詰めるだけ詰め込んで登ってみたりもした。

この行動は流石に注意されそうなので単独で登山をするときにやっていたが、安全とは言えないのでマネしない方がいい。

これだけ影響されていたので「いつか俺も加藤文太郎みたいにヒマラヤ山脈の山々に挑戦してー」と考えるようになり、山岳会に入会し、クライミングやバックカントリーをはじめた。

それから10年程経った現在、私はヒマラヤ山脈とは無縁の人生を送っている。

普通に会社勤めをしていれば海外登山なんかやってる暇もなければ資金もないし、何より自分は結構なビビりだということに気が付かされた。

今では結婚し子供も生まれたので登山すら以前ほど行かなくなってしまったが、今でも登山やクライミングは私の一番の趣味として残っている。

登山服で生活してたことも、ヒマラヤ山脈に憧れたことも今では大切な思い出の一つだ。

話がだいぶ長くなったが漫画「孤高の人」は私に大切な思い出を作るきっかけとなった感謝すべき漫画である。

 

圧倒的画力による雪崩の表現や心理描写

「孤高の人」の画力がとても高く、人物の表情も豊かだか山の景色や雪の表現も素晴らしい。

このクオリティで週刊連載をしていたことには驚きしかない。

そして12巻頃からは漫画特有の擬音や効果音の字がなくなり(ワンピースで言うところの「ドンッ」など)絵による比喩表現で音を読者の頭の中に響かせている。

例えばテントを揺らすほどの風の音を人間の手でテントを叩く絵で表現したり、頭上に落下してくる巨大なセラック(雪の塊)を倒壊するビルで表現したりと、読者がイメージしやすいもので表現している。

発想もスゴイが作者の坂本眞一先生の圧倒的な画力だからこそできる技術だと思うし、もはや芸術の領域だ。

漫画「孤高の人」コミックス15巻より引用

 

魅力的な登場人物たち

「孤高の人」がスゴイのは画力だけではなく、登場人物たちも魅力的だ。

魅力的だと言ったが正直「孤高の人」は登場人物たちの扱いが雑で「新キャラ登場か?」と思ったら全然出てこなかったり(2巻で初登場した原渓人や7巻で登場した前園葵など)

「こいつらは物語の重要人物だろうな」と思った奴らが作者の都合?でフェードアウトしていったりクズ化したりする。

「あいつらは一体何だったんだ?」って感じずにはいられないが、ある意味それが「孤高の人」らしいのかもしれない。

その中でも私のお気に入りの登場人物を4人紹介したいと思う。


宮本一

加藤文太郎がクライミングの世界に入るきっかけを作った人物、ヤンチャな性格でコミュ障の文太郎とは正反対の性格だが互いに認め合うライバルであり文太郎の数少ない友人でもあった。

文太郎の異常行動がきっかけで部活動ができなくなり、大西先生も命を落として学校を退学。

「俺、フランス行くわ」の名言を残し物語から姿を消す。

数年ぶりに文太郎と再会した宮本はフランスには結局行っておらず、夕実の所有するレクサスを乗り回し、他人の金でFXをしたり成人式の時には紋付袴で暴れまわっていたらしい。

ただのチンピラである。

そんな宮本の一番の名言がポッケから工事現場で拾った石ころを出して「フランス土産セユーズの石だ」からの「マジでセユーズは俺たちクライマーにとって楽園だ」

このシーンは読み返すたびに面白過ぎてニヤけてしまう。

宮本の一番の見せ場とも言っていい。

漫画「孤高の人」コミックス10巻より引用

宮本の話を聞いた文太郎がイメージしたセユーズ。

建村は誤魔化せても一流の文太郎は誤魔化せなかった。


安藤夕実(旧姓白井夕実)

この漫画のヒロインになるはずだった人物。

文太郎と宮本と共にクライミング部に所属していたが、文太郎の異常行動のせいで大学の内定が取り消しになり、人生が狂ってしまう。

その後二年間の間に何があったか知らないが偶然にも再開した夕実は風俗で働き、文太郎にすらサービスをしてしまうような安い女になってしまった。

完全にダークサイドに落ちている。

その後金持ちそうな男と結婚し風俗の仕事からも足を洗ったようで、小綺麗な格好で宮本と共に再び文太郎の前に現れる。

が文太郎の金が目当てで残念な女である。

おまけに文太郎の後輩、建村も誘惑して人生を狂わせてしまった。

「孤高の人」のヒロインになるはずだった魔性の女である。

漫画「孤高の人」コミックス1巻より引用

漫画「孤高の人」コミックス10巻より引用

小松辰治

14マウンテン山岳会の副隊長。

文太郎が北アルプス縦走を達成した際の副隊長だったが途中雪崩に巻き込まれ死亡する。

俳優の泉谷しげるに激似の彼だがドギツイ性格がとても印象的だ。

古き日本の悪しき風習をそのまま形にしたような人物で「先輩が言うことは何がなんでも絶対に従え」的な考えの持ち主である。

小松副隊長に文太郎も陰湿な虐めをうけていた。

小松辰治も文太郎と同等レベルに頭がおかしくて昔の登山で足の指をすべて凍傷で失っているのにも関わらず家族のことなんか完全に無視で山に没頭している。

登山の技術はかなり高いようで

ボルダリング4段クラスの岩(ワールドカップの決勝レベルのグレード)を登山靴で、しかもザックを担いだままオンサイトする怪物である。

もはや人間技ではない。

小松辰治の名言は「〇〇〇〇〇がしてぇ~」だがここでは言えないので実際に読んで確かめて欲しい。

漫画「孤高の人」コミックス5巻より引用

 

建村歩

文太郎に憧れる後輩クライマー。

文太郎のようにフリーソロで5.12の岩を登りダブルダイノ(両手を離してジャンプする)を決めるくらいには頭がイカれているが、文太郎と違い人間らしさがまだ残っていて「孤高の人」の作品内では比較的まともな部類だった。

だが安藤夕実に誘惑されすっかり虜になるも夕実は既婚者で子供もいる事実を知り絶望。

一生懸命夕実を忘れようと努力するも闇落ちし、山に逃げるように没頭するようになる。

健全な登山なら山に逃げることは私も賛成だし共感できるのだが、建村は実家の店の金を勝手に使い文太郎の真似をして海外の山に単独で突っ込みまくる。

かなり無茶な登山なので日頃からドーピング剤の注射を登山に携行しており、漫画のクライマックスで文太郎とK2に挑戦中、混濁する意識の中で無意識に注射を打とうとしていた。

(勃起誘発剤を使用することにより血流を促進し、脳内に流れる酸素量一時的に増やしていた)

日本に帰ってきても山のトレーニングと称してフィルター付きマスクの通気口をガムテープで塞ぎ「バルブを三つ塞げば高度9000m...」とか言いながら街中で酸欠でぶっ倒れていた。

この漫画にまともな奴はいないのかよ!って思うがそこが「孤高の人」の面白い所でもあるし建村本人も自分がイカれていることは理解しているようで「俺はもう人間じゃない」と自分で言っている。

まぁ自覚があるんならいい...かな...?

漫画「孤高の人」コミックス14巻より引用

 

漫画「孤高の人」コミックス13巻より引用

 

この二人が同一人物だとは読んだ人しかわからないだろう。


「孤高の人」は漫画史に残る大傑作

私の好きな登場人物たちの紹介はネタのようになってしまったが、そんな彼らも漫画を読んでいると全然違和感がない。

他の登場人物たちもそれぐらいクレイジー過ぎるからだ。

だからこそ面白い。

これから登山を始めようと考えてる人は是非読んで欲しい作品だ。

きっと登山の魅力に気づくきっかけをくれるだろう。

ただし登場人物のマネは絶対にしてはいけない、確実に寿命は縮む。

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